第17話 ツナギ襲来
2013-02-11
ここで言う「ツナギ」とはモッサン地方の呼び名である。
「小型の虻(アブ)」の事で、夏の山で忌み嫌われる存在だ。
「何だアブか」と言われるかもしれないが、コイツのせいでモッサンは2度も大変な目に遭っているのである。
【1回目】
母親の原付(パッソル)を無断で借りて(もちろん無免許)後ろに弟を乗せて林道をツーリングしていた時のこと。
林道なので基本砂利道である。3キロほど走ると弟が「ケツ痛てェ」と言い出した。モッサンはスクーターを停め、休憩する事にした。
2~3匹のツナギが足元を飛んでいるのを手で払いながらジュースなど飲んでいるうちに、チクチク刺され始め、気がつくとツナギは数百匹の大群になっていた。
これはさすがにヤバイと思ったモッサンは撤退を決意。急いで弟を後部に乗せ発進・・・
ウィリー!!!
身の危険を感じた弟は咄嗟にスクーターから飛び降りたが、重量が減ったのでスクーターは加速。ほぼ垂直に立ち上がった車体は横に倒れ、モッサンの左脚に落ちた。
「脚、もげた」とモッサンは思った。
当時のスクーターはステップが鉄板状に平らになっており、それがギロチンのようにモッサンの足首に落ちた訳で、どう考えても無事なハズがない。
火事場の馬鹿力で、腕力だけでスクーターを退かし、左足首を見てみた。
足首の皮膚がかなり奥までめり込んでいて、その奥に骨が見えていた。やがてせきをきったように血と痛みがあふれ出してきた。
「ギャー!!!」
モッサンはすぐ近くにながれる沢へ「ケンケン」で走って飛び込み、傷口を沢水に浸した。何故そうしたのか未だにわからないが、沢水がピンクに染まったのを今でも鮮明に憶えている。
弟は呆然、兄は激痛を堪えて沢の中。それでもツナギは容赦なく二人の血を吸いまくる。
(これを地獄と呼ぶのだろうか)とモッサンは思った。
鬼のように痛かったが、またケンケンでスクーターまで戻り、今度はゆっくり発進。その間にも数ヶ所刺されたが、刺された痛みなんて全く感じなかった。
無事に家に帰還を果たしたが、スクーターのステップは血だまり。水で洗い流した。
気になる患部は、肉が所定の位置に戻っており骨は見えていない。奇跡的に骨折もしていなかった。
モッサンはこの傷をオロナインで治したのである(笑)だって病院行けば色々バレるし、縫うのも絶対イヤだった。完治まで3ヶ月もかかったのだった。
【2回目】
モッサンは、上流の砂防ダム落ち込み部で銛を片手に潜り、イワナやヤマメの捕獲作戦をしていた。
すごい数の魚が泳いでいて、特にヤマメは美的に優れていて、モッサンは銛で突くのも忘れてしばらく浮遊していた。水中メガネにシュノーケルを装備していたので、ずっと水中を見ている事ができた。
そのシュノーケルに「コツン・コツン」と何かが当たっていて、いや、その「何か」が何かモッサンは分かっていたが、確認のため水中から顔を出してみた。
ああ・・・真っ黒・・・
これって、何万匹いるんでしょうね・・・という勢いのツナギの塊であった。
ツナギたちは一瞬でモッサンの頭や顔にピタピタととり付き、モッサンが急いで水中に逃げるまでのわずか2秒ほどの間に5ヶ所ぐらい刺された。
下は魚天国、上はツナギ地獄。たま~に背中とかが水面に出ると、すかさず刺してくる。完全に「待ち」状態ですな。
しばらく膠着状態が続いたが、やがてモッサンに限界がおとずれた。
水が冷たくて身体が冷え切ってしまったのである。
30センチぐらいのヤマメを1匹仕留め、「せーの」で一気に川から上がり、全速力で走って自転車にまたがって逃げた。
やはりツナギの群れは追ってきてあちこち刺したが、500mぐらい走ったところで急に1匹もいなくなった。ツナギには行動半径があるのだろうか。
やれやれ、一件落着・・・とはいかなかった。
突然目まいと吐き気がモッサンを襲ったのである。真夏で暑いはずなのに寒気が全身を覆い、モッサンはフラフラになってやっと家に帰り着いた。
すぐに風呂へ行き、熱い湯に浸かること実に2時間。やっとまともに動けるようになった。
おそらくは「低体温症」。冷たい川の水に入りっぱなしだったのが原因だろう。
あんなに具合が悪くなるもんだとは・・・
ツナギ恐ろし!
PS.ツナギでも、アナフィラキシー・ショックがあり得るそうです。
真夏は山より海にいきましょう(笑)
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